『そんなこと言って結局は逃がすんだろう?』
リーラヴは困惑した。
「リーラヴちゃん?」
ロイヤは心配そうな顔でリーラヴを見た。
『もうわかりきったことなんだ…』
ヒンバスは暗い声でそう言い、川へ戻ろうとした。
「待って!」
リーラヴは叫んだ。
「誰もゲットしないって言うならあたしがゲットする!」
ヒンバスはびっくりしてリーラヴを見た。
『何だって!?』
「一生懸命育てる!だからっ…」
リーラヴはヒンバスに一歩一歩近づいていった。
そしてヒンバスのそばまで行って姿勢を低くした。
『…っでもっボクみたいなノロい奴強くなれるわけないだろ?それで結局は捨てられるんだ…』
「そんなっ―」
リーラヴが言葉を言いかけた、そのときだった。
ドカッ チコリータがヒンバスにたいあたりをした。
「えっチッチコリータ!?」
「何が起こってるの!?」
リーラヴはかなりあせった。ロイヤは訳がわからずつっ立っている。
『なっいきなり何するんだよ!』
『ヒンバスくん…あきらめないでよっ強くなれないなんて言わないで!』
チコリータは必死だった。
『ヒンバスくんは今、自分からチャンスを遠ざけてる!
そんなんでゲットされるわけないじゃない!』
ヒンバスはムッとした。
『きみは強いし、ゲットされてるからそう言えるんだろ?』
『え!?私が…強い…?』
チコリータは目が点になっている。
「ヒンバス、チコリータはいじめられてたんだよ?」
『え!?』
『うん…。いじめられてた。それにヒンバスくんみたいに誰からも選んでもらえなかった…
でもリーラヴは私と同じ痛みを知ってて…それにいっしょに強くなろうって言ってくれた…』
ヒンバスは黙って顔を上げてリーラヴを見た。
『…ボクも…強くなれる…?』
リーラヴはニコッと笑った。
「うんっきっと…いや、絶対!」
ヒンバスは少しの間黙った。かすかにヒンバスが笑った様に見えた。
『ボク…きみについていくよ』
「ホントに!?」
ヒンバスはゆっくりうなずいた。リーラヴはリュックからモンスターボールを出して
ヒンバスの近くに置いた。ヒンバスはヒレでつんとボールに触れた。
ヒンバスはボールの中に入っていった。リーラヴはボールを手に取りこう言った。
「いっしょに…強くなろうね!」
「一緒に行くことになったんだ?ヒンバスくん」
ロイヤには何が起こったか理解できなかった。
「うん。ロイヤのおかげ」
「え?私何もしてないじゃん。何がなんだかわからないし…」
ロイヤは首をかしげながら言った。
「だってロイヤがいなかったらヒンバスに会えなかったよ?」
リーラヴは笑いながらそう言った。ロイヤもそれにつられるように笑った。
「まぁ…そうなるわね」
「ねぇ、ロイヤはこれからどうするの?」
「んー…どうするって言われても…まぁ一応ポケモンコーディネーター目指して
修行中なんだけど…カントーに来たのには別の理由があるのよね」
「別の理由…?」
するとロイヤは空を見上げた。リーラヴたちの上には果てしない青空が広がっている。
「人を探してるの…」
「…?誰を?」
そう言いながらリーラヴも空を見上げた。
「…友達…旅に出ててどこにいるかわからないんだ。ちょっと心配でさ…
あいつ不器用だし、人付き合い悪いし、考えなしにどんどんつっこんでいっちゃうし…」
「アハハ…なんか悪口ばっかじゃん。でもそういうのを個性って
言うんじゃない?その性格面白いねぇ!」
するとロイヤはすぐに反論した。
「面白くなんかないよっ危なっかしい!だいたいそいつ男だし!
昔は私のほうがバトルとか強かったのに…今じゃ…私はそいつの足元にも及ばない…」
ロイヤは下を向いた。
「バトルでは敵わないからコーディネーターを目指すことにしたんだ。
でもまぁ、あいつに芸術がわかるとは思えないけど」
「…ロイヤってさ、その人のこと好きなの?」
「はぁ!?」
ロイヤの顔は一瞬で赤くなった。
「何言ってるの!?そんなわけないでしょ!」
リーラヴはクスクス笑いながら言った。
「顔赤くなってるよ」
「えっ!?いや…ホントにそんなんじゃなくて…ね?」
ロイヤはあせりながら言った。リーラヴはロイヤの顔をじーっと見た。
「ホントに~?」
「ホントだってばぁ…」
「ねぇ、リーラヴちゃん。リーラヴちゃんはジム回ってるんでしょ?」
「うん。その予定…何でそんなこと聞くの?」
リーラヴはロイヤのほうを見た。
「いっしょに旅しない?旅は大勢のほうが楽しいでしょ?」
ロイヤはニッコリ笑って言った。
「いっしょに?うん…いいよ!そうしよ!」
「よかった!これからもよろしくね。リーラヴちゃん」
ロイヤはリーラヴのほうに手を出した。
「うん。こちらこそ♪」
リーラヴも同じように手を出した。2人はギュッと握手をした。
「見つかるといいね。その人」
リーラヴは笑顔でロイヤを覗き込むように見ながら言った。ロイヤもニコッと笑った。
「うん。大丈夫。きっと見つかる…風が導いてくれる…」
そよ風に吹かれながらリーラヴとロイヤ、そしてチコリータは最初のジムがある
ニビシティへ向かって歩き出したのである。