「ハァ…」
ここはトキワシティの近くにある静かな川。リーラヴはそこで釣りをしていた。
『釣れないねぇ…』
チコリータはつまらなそうな顔をしているリーラヴに話しかけた。
「一度釣りをやってみたいなぁって思ってたんだけど…」
そう言いながらリーラヴは釣竿を引き上げた。しかしそこにエサはなかった。
『また知らない間に食べられちゃったの?』
「だろうね」
リーラヴは新しいエサをつけて釣竿を ぶん と振った。 ポチャン
ちなみに釣りを始めてからもう3時間は経っている。
「…」
『…』
「あー…もう!なんかイラつく!話しようよ、うん」
と、リーラヴは叫んだ。
『そうだね。…そういえばあのたまご、中身なんなんだろう』
それを聞いたリーラヴはリュックからたまごを出した。そのたまごの模様は…
太陽や雲、雷、風とかのマークみたいなものだった。
「ホントになんなんだろ…」
リーラヴはたまごを見つめた。そのたまごはたまに少しだけど動いている…
ような気がした。そしてリーラヴはニコッと笑って
「早く産まれてこないかな♪」
と言った。
「あ!」
リーラヴたちの後ろのほうで声がした。リーラヴとチコリータはびっくりして
反射的に後ろを向いた。そこには15歳くらいの少女がいた。
その少女は黒髪でここらへんでは見ないような服を着ていた。それだけでも珍しいのに
少女の目は明るくて透き通ったきれいな赤色だった。そんな色の目を持つ人は初めて見た。
「あの…隣座ってもいい?そこよく釣れるんだ♪」
少女はリーラヴに話しかけた。
(よく釣れる…?全然釣れないんだけどなぁ)
リーラヴは首をかしげながら
「うん。いいよ」
と言った。少女はリーラヴの隣に座って釣りの道具を出した。
リーラヴのと違って本格的で高そうなものだった。
「ごめんねっ急に。私、この場所気に入ってて…」
少女は釣りの準備をしながらそう言った。
「いいよ、全然…あ、あたしね、リーラヴっていうの」
話題を無くしたリーラヴは慌てて言った。
「ふ~ん。私はロイヤ!よろしくねっリーラヴちゃん」
ロイヤはニコッと笑った。
ロイヤは慣れた手つきで釣りをし始めた。すると10分後にコイキングが1匹釣れた。
まぁロイヤはたんに釣りを楽しんでいるだけなので釣れてもすぐ逃がしてしまうが。
「…あの…ロイヤさん…あたしに釣りを教えてください!」
リーラヴは思いっきり言った。ロイヤはクスッと笑った。
「いいよっ教えてあげる!あと呼び捨てでいいからね」
ロイヤはリーラヴのバケツを見ながら言った。当然ながらバケツには水しか入っていない。
1時間後…。 ポチャン
「そうそう!いい感じよ。リーラヴちゃん!あとはかかるのを待つだけ」
「うん!ありがとう、ロイヤ!」
そのころチコリータは居眠りをしていた。
「釣りをしているときはなるべく静かにして集中するの。そうすればそのうち…―あ!」
ロイヤは釣竿を指差した。釣竿の糸がピクピク動いていた。
グイ 急に釣竿が水中へ引っ張られた。
「うわっ!?」
「かかったのよ!糸引いて!」
リーラヴは慌てて釣竿を引っ張った。
「チコリータ!起きてよ!」
リーラヴは叫んだ。チコリータは バッ と体を起こした。
『えっ何!?かかったの?すごい!』
「うん…それっ!!」
リーラヴは釣竿を思いっきり引っ張った。 バシャァ 水中からポケモンが現れた。
「ヒンバスだわ!ここらへんじゃよく釣れるけど…」
ロイヤは即座に言った。そこにはいかにもノロそうなヒンバスがいた。
そのヒンバスはゆっくりと顔を上げリーラヴたちを見た。
『また釣られちゃった…』
「?」
「どうしたの?リーラヴちゃん?」
少し戸惑っているリーラヴにロイヤが聞いた。
「…また…?」
ヒンバスは悲しそうな目でリーラヴたちを見ている。
『どうせボクなんて相手にしないんだろうな。トレーナーはみんなそうだ。
ここじゃヒンバスなんてたくさんいるからいらないって…』
「…このヒンバス…オスかな…」
リーラヴが呟いた。
「どうしてわかるの?」
ロイヤは不思議そうな顔をしている。
「なんとなく。それにボクって言ってるし…」
「え!?」
ロイヤは驚いた顔をしてリーラヴを見た。
「…どうしたの?…あ、あたしポケモンの言葉がわかるのっ」
ロイヤが驚いた理由がやっとわかったリーラヴは慌てて言った。
「ポケモンの言葉が!?すごい!じゃぁあのヒンバス君はなんて言ってるの?」
ロイヤはヒンバスを指差した。
「…ボクは相手にされない…って」
『きみ…ボクの言葉がわかるの?』
2人の会話を聞いていたヒンバスはこっちに近づきながら(ぴちぴちとはねながら)そう言った。
「うん…釣られてもゲットされないから寂しかったんだね…」
リーラヴは静かにそう言った。
『…きみはどうなの?』
「えっ!?」
『きみはボクをゲットするっていうのかい?』
ヒンバスはリーラヴを見つめた。その目は人間を信用していない目だった。
ガチャ オーキド研究所の扉が開いた。
「ん?何だろ…?」
リーラヴとオーキド博士はその音に気付き、玄関に行った。そこにいたのは…
「チコリータ!…とマリィ!」
『リーラヴ…』
チコリータは何を言えばいいのかわからなかった。
「チコリータ!帰ってきてくれたのね!」
リーラヴはそう言ってチコリータをギューっと抱きしめた。チコリータの顔が明るくなった。
『あの~お取り込み中悪いんだけどぉ、おまけみたいな言い方やめてくれる~?』
マリィは不満そうな顔をしてリーラヴに言った。
「アハハ…ごめん☆」
リーラヴは笑いながら言った。
「さてと、チコリータ!もう旅の準備は出来てるんだ!!」
リーラヴはチコリータが帰ってきたらすぐに出れるように準備をしていたのだ。
「行こ!チコリータ!」
リーラヴは早く行きたいようだ。
『ちょっと待って』
そんなリーラヴをマリィが引き留めた。そしてくるっと半回転し、チコリータを見た。
『チコリータ。もう1度勝負しない?今度は本気でさ』
『えっ!?』
「うん。そうだね」
リーラヴは強気な顔をしてそう言った。しかしチコリータは逆だった。
『そっそんなっ私…』
チコリータは一瞬断ろうとした。でも断れなかった。逃げたくなかったから。
『…私…やる。…絶対マリィさんに勝つ!』
「そうと決まれば…早速!」
リーラヴたちは外に出た。
「よし。チコリータVSマリィ!スタートじゃ!」
オーキド博士が大声を上げた。
マリィがみずでっぽうを発射した。
「チコリータ!よけて!」
タッ チコリータはみずでっぽうをよけた。どうやら前のバトルで
マリィの攻撃が直線的だということに気付いたらしい。
『じゃぁこれをよけれるかしら!?』
マリィから冷気が発せられた。
「冷凍ビーム!?チコリータ!気をつけて!」
マリィの冷凍ビームが強力だということはオニスズメの件で十分わかっていた。
チコリータは息を飲んだ。 カッ 冷凍ビームが発射された。
チコリータは地面に這いつくばって、ギリギリのところでよけた。
「フー。危なかった」
しかしすぐにマリィが攻撃してきた。マリィのしっぽが光り、硬質化した。
「アイアンテール!?」
マリィはそのしっぽをブンと振り下ろした。チコリータは反応できなかった。 ドーン
『きゃあっ』
チコリータは攻撃をまともに受けてしまった。マリィはすぐに冷凍ビームの準備をした。
(まずい…今、冷凍ビームが当たったら…!)
しかしチコリータはまだ体勢が整っていない。
発射。冷凍ビームはまっすぐチコリータへ向かっていく。
どうしよう…。よけないと…。でも、体が…動かないよ…。私…やっぱりダメなのかな…。
だんだん冷気が強くなってくる…。でも…勝ちたい…。変わりたい。
強く…強くなりたいっ!!
「チコリータ!!」
冷凍ビームはチコリータがいるところを通過した。そこにチコリータの姿はなかった。
シュッ チコリータがマリィの後ろから攻撃した。チコリータはほぼ一瞬で
マリィの後ろに移動していたのだ。
「これは…でんこうせっか?」
それだけではなかった。チコリータはマリィに直接攻撃はしていなかった。
(これは…?)
リーラヴの足元にはっぱが落ちていた。それはここらへんの植物にはないはっぱだった。
「もしかして…はっぱカッター?」
リーラヴはチコリータを見た。チコリータはパチンとウインクした。
「チコリータ…」
そう、チコリータはでんこうせっかとはっぱカッターを使えるようになったのだ。
『まだ…勝負はついてないわよ!』
マリィはハァハァ言いながらそう言った。効果抜群の技を不意に受けたためか
相当ダメージがあったようだ。マリィは丸くなった。
「!!チコリータ!ころがるだわ!」
リーラヴが叫んだ。リーラヴが言ったとおりマリィはころがるを使ってきた。
「チコリータ!はっぱカッター!」
シュッ しかし攻撃ははずれた。
(ころがるのスピードが速くて攻撃が当たらない…それなら!)
「チコリータ!でんこうせっかで反対側へ!」
『わかった』
タッ チコリータはマリィの後ろに回った。
(あのスピードだとそう簡単には方向転換できないハズ!)
リーラヴの読みどうり、マリィは方向転換に手間取った。
「今よ!はっぱカッター!!」
『いっけぇ!!』
シュッ はっぱカッターはマリィの体に当たった。回転が徐々に弱まっていった。
バタッ
『ふえぇ~目が回るぅ~』
マリィはそのまま気絶した。
『うあぁ~?』
しばらくしてマリィは目を覚ました。
「マリィ!大丈夫?」
『うん』
マリィは体を起こした。
『あ~あ、負けちゃったぁ。うちもまだまだだね…チコリータ、あんたはよくやったよ』
『えっ』
チコリータは顔が赤くなった。
『もっと自信持っていいんだよ。あんたなら強くなれる…そんな気がする』
『マリィさん…ありがとう』
「バトルもしたことだし、そろそろ行こっか。チコリータ」
『うん。そうだね。…あれ?あのおじいさん(オーキド博士)は…?』
みんなは周りを見回した。しかしオーキド博士の姿はなかった。
するとオーキド博士がドタドタと急いでやってきた。
「リーラヴ君!これを…」
オーキド博士は赤くて四角いものを出した。
「あ!これ、ポケモン図鑑だぁ!」
リーラヴはそれを手にした。
「トレーナーには必要なものじゃろ?」
「うん!」
リーラヴはうれしそうに言った。
「あと…これも持っていってくれ」
オーキド博士は丸いものを出した。それはあの、リーラヴがキャッチしたポケモンの卵だった。
「えっ!?いいの?研究に使うんでしょ?」
「まだ2個ある。それにこれはリーラヴ君がいなかったら割れていたかもしれんしな。
だから…リーラヴ君、きみが持っていてくれ」
リーラヴは卵を受け取った。
「ありがと。オーキド博士!…じゃ、行ってきまーす!!」
リーラヴはうれしそうに扉を開けた。ポケモンマスターへの道の
第一歩を今、歩みだしたのである。
リーラヴとチコリータ。1人と1匹は決意した。ともに強くなることを。
それを信じ、努力し続けることを誓い、旅立ったのである。